2014年1月29日水曜日

不飽和脂肪酸

 今週の月曜日に勉強してきたことを書きます。
我々が処方する薬にEPAとEPA/DHAの2種類があります。一方は持田製薬のエパデールという商品で、高純度のEPAが売りで、発売24年になる薬剤です。他方が1年前に武田薬品から出されたロトリガというEPA/DHA両方含んだ薬剤です。ともに高脂血症の治療薬なのですが、動脈硬化や不整脈、認知症など多彩な作用が研究されています。
 この日はエパデールの勉強会でしたから、どうしてもエパデールがよくて、対抗品が劣るという論調が多かったです。特定の商品をPRする勉強会の宿命なのですが、どうしても高純度EPAがよいのだという擦り込みになります。
 いくつか面白かったトピックをあげると、エパデールでrho kinaseを介した冠動脈攣縮を改善できた症例や、ω-3酸エチルはEPA/DHAの混合なので純化されておらず、LDL-コレステロールを30%ほど上昇させることがある点、高純度EPAには有機水銀が含まれる可能性が低い点などの話がありました。
 私が、個人的にもっとも印象深かったのは、n-3脂肪酸には心血管イベントの1次予防効果も2次予防効果も明らかでないということがわかってきたようです。この理由は同時に使用される高コレステロール血症治療薬のスタチンの効果でn-3脂肪酸の効果が打ち消されるというものです。
 さらに、ORIGIN,OMEGA,Risk nad Prevention Studyではω-3酸エチル(ロトリガ)の有用性が証明されなかったということです。
 なぜ、n-3不飽和脂肪酸でもEPAがDHAより勝っているかという機序についてですが、アラキドン酸(AA)が血管の細胞膜に存在すれば、炎症性サイトカインが活性化されるのですが、AAがEPAに置き換わればその活性が起こらず、血管内皮機能も改善されるとのことでした。また、プラークの安定化作用もあるということです。このAAに対する置換がDHAには起こせないので、逆に血管内皮機能を悪化させるとのことでした。
 以上の点は、よく検討しなければならないと思いました。つまり、反対の意見やデータがあるのであれば、それも俎上にのせて検討しなければフェアとは言えないと思います。製薬会社のいうようにしか物が見れないでは困ります。我々は常に批判的な目を持っていなければ、単に薬屋さんに踊らされる医者になってしまいます。日々の臨床で統計がとれるほど多くの患者の治療をしているわけではないのですが、一例一例考えながら診療をすることがその答えを見つける近道なのかもしれませんね・・・。
 個人的には、エパデールもロトリガも中性脂肪を下げる力はマイルドであまり多くを期待していません。ただ、EPAにもEPA/DHAにも成分にはポテンシャルを感じているので、今後も使用すると思います。

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2014年1月17日金曜日

動脈硬化と低用量アスピリンの消化管粘膜障害

 今夜も少し勉強してきました。
 まずは低用量アスピリン(LDA)は脳血管障害や虚血性心臓病などの2次予防によく使用され、その有効性が証明されています。しかし、同時に消化管粘膜障害を惹起して消化管出血を併発することがあります。この種の病変は、症状に乏しく、LDAの用量に依存せず、ピロリ菌保菌者でより生じやすいことが知られています。そして、消化管出血を生じれば、患者の生命予後も悪化させることが知られています。この病態に対する予防として、プロトンポンプインヒビター(PPI)が有効とのことです。具体的にいえば、ネキシウム20㎎か、タケプロン15㎎の使用です。PPIの長期投与では、collagenous colitisによる下痢などの副作用も知られているのですが、比較的まれなのでベネフィットのほうが多いと言えるようです。しかし、LDA使用者のすべてにPPIを使用するわけにはいきません。潰瘍既往歴のある患者と高齢者にはPPIをLDAに併用したほうが良いようです。
 次に動脈硬化です。動脈硬化の本態は血管炎で、血管障害に対する反応が炎症と考えられているということでした。それゆえ、微量のCRP上昇は血管炎を示唆して、動脈硬化が進行中であることを示しているのかもしれません。慢性扁桃炎、副鼻腔炎、歯周病、膠原病などの慢性炎症は動脈硬化の危険因子と考えられています。薬剤でいえば、スタチンやアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)はCRPを低下させて微小炎症を減少させることが知られています。
 インフルエンザの流行が始まっていますが、インフルエンザ流行時は心筋梗塞が増えるそうです。ウイルスがプラーク周辺にもやってきて炎症を起こすのかもしれません。興味深いですね。
 血管狭窄は内膜肥厚を起こす内膜の病気であり、糖尿病が危険因子です。一方、動脈瘤や血管拡張は平滑筋の壊死(アポトーシス)で生じる中膜の病気と考えられており、喫煙が危険因子と思われます。
 最近話題の大気汚染物質との関係ですが、PM2.5とはParticulate Matter 2.5の略で、粒子径2.5μmで50%の捕集効率をもつフィルターを通る微粒子のことだそうです。黄砂がアテローム塞栓性脳梗塞発症や急性心筋梗塞発症と関連しているというデータがあるそうです。また、PM2.5が循環器疾患の死亡リスクを上昇すると考えられているようです。
 次に薬剤についてですが、スタチンによる脂質管理は、LDL-C 100㎎/dl未満(ハイリスク例では70㎎/dl未満)、TGが200㎎/dl以上の時はnon-HDL-C 130mg/dl未満(ハイリスク例では100㎎/dl未満)が推奨されています。体重管理はBMI 18.5-24.9を維持すること、運動は毎日30-60分を行うことなど厳しい目標が掲げられています。運動に関しては筋肉を内分泌器官とみなして、myokineという筋肉から出るサイトカインが多臓器とcross-talkすると考えられているそうです。
 それ以外にも興味深い話は合ったのですが、今日はこれくらいにしておきます。ちょっと疲れました・・・。

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2014年1月15日水曜日

糖尿病と癌

 今年初めての書き込みです。やっと正月気分も抜けて仕事モードに入ってきました。本日の講師は、久山町研究を中心となってされている清原裕教授です。
 久山町研究は1960年から九大で行われている40歳以上の久山町住民を対象とした前向き研究です。健診受診率80%、剖検率75%、追跡率99%と世界に誇れる疫学研究です。
 日本においても多くの先進国にみられるように糖尿病およびその予備軍が増えています。2030年には糖尿病の患者は50%増加すると予想されています。また、日本人の2人に1人が癌にかかり、3人に1人が癌で死亡します。
 75gGTTという糖負荷試験で、久山町でもほぼ1/4が糖尿病と診断されています。さらに、高齢者の糖尿病が増えています。
 空腹時血糖(FBS)が上昇するほど癌死のリスクが上昇しています。胃癌についていうと、HbA1cが6%以上から胃癌リスクが上昇します。また、ピロリ感染と高血糖が合併すると、胃癌リスクが上がると考えられています。ついでにいうと、ピロリ感染と高食塩食の合併でも胃癌リスクが上昇することも知られています。
 糖尿病は前立腺癌を除くほとんどの固形癌(肝、膵、子宮内膜、大腸、乳房、膀胱)のリスクを上昇させると考えられています。その機序ですが、癌の発生過程としてInitiation(発癌)、Promotion(増殖)およびProgression(転移)と進むことが知られているのですが、このそれぞれにおいて①高血糖および酸化ストレス、②高インスリン血症および活性型IGF-1上昇、③炎症の3つが関与していると考えられています。
 ここで面白いデータがあります。糖代謝異常の有無による悪性腫瘍の累積死亡率には差があるが、糖代謝異常による心血管病の累積死亡率に有意差がなかったというものです。つまり、糖尿病の患者は血糖正常の人と比べて癌は多いが、心血管病は多くないというものです。糖尿病の治療が心血管病予防という観点では功を奏し始めたということかもしれません。
 糖尿病と癌に関する介入試験はほとんどないため、今後の検討が待たれます。糖尿病が重症なほど癌のリスクが高くなるため、糖尿病罹患歴を勘案した多変量解析を要するのですが、糖尿病治療薬で癌の発症が有意に増加するということは認められていません。ただし、メトホルミンでは癌リスクを下げることが示されています。インスリン、SU剤、DPP-Ⅳ阻害薬では癌と関連はなさそうでした。ここでピオグリタゾンと癌についてフランスでなされたCNAMTS研究について説明され、統計的な問題(糖尿病罹患歴を勘案していない、検索研究であり、P<0.05ではなく、P<0.002を採用すべきである)があり、ピオグリタゾンと膀胱癌の関連はないのではないかという説明がありました。また、アジア人では膀胱癌とピオグリタゾンの関連を示すデータはないとのことでした。アクトスを使用しているものとしては心強いデータでした。さらに、ピオグリタゾンはインスリン感受性改善薬なので、肝癌リスクをむしろ下げるというデータがあるようです。糖尿病の治療を選択する上で、癌のリスクを主な考慮に入れるべきではないというのが、現時点でのコンセンサスのようです。
 Take Home Messageとして、糖尿病の方は心血管病の検査だけでなく、癌のスクリーニングも重要だと再認識させられました。

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