2014年1月15日水曜日

糖尿病と癌

 今年初めての書き込みです。やっと正月気分も抜けて仕事モードに入ってきました。本日の講師は、久山町研究を中心となってされている清原裕教授です。
 久山町研究は1960年から九大で行われている40歳以上の久山町住民を対象とした前向き研究です。健診受診率80%、剖検率75%、追跡率99%と世界に誇れる疫学研究です。
 日本においても多くの先進国にみられるように糖尿病およびその予備軍が増えています。2030年には糖尿病の患者は50%増加すると予想されています。また、日本人の2人に1人が癌にかかり、3人に1人が癌で死亡します。
 75gGTTという糖負荷試験で、久山町でもほぼ1/4が糖尿病と診断されています。さらに、高齢者の糖尿病が増えています。
 空腹時血糖(FBS)が上昇するほど癌死のリスクが上昇しています。胃癌についていうと、HbA1cが6%以上から胃癌リスクが上昇します。また、ピロリ感染と高血糖が合併すると、胃癌リスクが上がると考えられています。ついでにいうと、ピロリ感染と高食塩食の合併でも胃癌リスクが上昇することも知られています。
 糖尿病は前立腺癌を除くほとんどの固形癌(肝、膵、子宮内膜、大腸、乳房、膀胱)のリスクを上昇させると考えられています。その機序ですが、癌の発生過程としてInitiation(発癌)、Promotion(増殖)およびProgression(転移)と進むことが知られているのですが、このそれぞれにおいて①高血糖および酸化ストレス、②高インスリン血症および活性型IGF-1上昇、③炎症の3つが関与していると考えられています。
 ここで面白いデータがあります。糖代謝異常の有無による悪性腫瘍の累積死亡率には差があるが、糖代謝異常による心血管病の累積死亡率に有意差がなかったというものです。つまり、糖尿病の患者は血糖正常の人と比べて癌は多いが、心血管病は多くないというものです。糖尿病の治療が心血管病予防という観点では功を奏し始めたということかもしれません。
 糖尿病と癌に関する介入試験はほとんどないため、今後の検討が待たれます。糖尿病が重症なほど癌のリスクが高くなるため、糖尿病罹患歴を勘案した多変量解析を要するのですが、糖尿病治療薬で癌の発症が有意に増加するということは認められていません。ただし、メトホルミンでは癌リスクを下げることが示されています。インスリン、SU剤、DPP-Ⅳ阻害薬では癌と関連はなさそうでした。ここでピオグリタゾンと癌についてフランスでなされたCNAMTS研究について説明され、統計的な問題(糖尿病罹患歴を勘案していない、検索研究であり、P<0.05ではなく、P<0.002を採用すべきである)があり、ピオグリタゾンと膀胱癌の関連はないのではないかという説明がありました。また、アジア人では膀胱癌とピオグリタゾンの関連を示すデータはないとのことでした。アクトスを使用しているものとしては心強いデータでした。さらに、ピオグリタゾンはインスリン感受性改善薬なので、肝癌リスクをむしろ下げるというデータがあるようです。糖尿病の治療を選択する上で、癌のリスクを主な考慮に入れるべきではないというのが、現時点でのコンセンサスのようです。
 Take Home Messageとして、糖尿病の方は心血管病の検査だけでなく、癌のスクリーニングも重要だと再認識させられました。

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