2014年7月7日月曜日

慢性痛

 きょうはめずらしく即日の更新です。今日のテーマは慢性痛です。全成人の22.5%が悩んでいると考えられています。ここで疼痛には侵害受容性痛と神経障害性痛に分けられ、侵害受容性痛とはズキズキするような重苦しい痛みであり、NSAIDsの効果があり、感覚障害を認めないもので、神経障害性痛とはヒリヒリ、ピリピリ、電気が走るような痛みであり、NSAIDsは効果なく、感覚障害を伴います。神経障害性痛は中枢性と末梢性があります。
 神経障害性痛の機序として、末梢性感作、中枢性感作および下行性抑制系の抑制などが示唆されています。
 トラムセットという薬剤があるのですが、弱オピオイドであるトラマドール37.5mgと中枢性鎮痛剤のアセトアミノフェン325mgの合剤です。トラマドール50mgがほぼモルヒネ10mgに相当するようです。ただし、副作用も60%と多いため、眠気、めまい、便秘、嘔気などを十分に対策を立てておくことが重要です。そのため、ナウゼリン1錠とマグミット2錠とともに眠前1錠から開始して2週間ずつ漸増して痛みがコントロールされていくまで増量していくのが良いとされているようです。2週間後に嘔気がなければナウゼリンは中止しても、便秘のコントロールは容易でないためマグミットは自己管理させて継続するほうが良いようです。疼痛改善率は65‐80%だそうです。効果発現も早いが、効果消失も早く、1日3‐4錠を必要とする例が多いようです。自動車を運転される方には眠気が生じるために注意が必要なようですが、使用できないとまでの発言はありませんでした。この点はもう少し自分としては検討したい点です。
 最後に薬物療法ですが、侵害受容性痛では①NSAIDs、②トラムセット、トラマール、③モルヒネ、フェンタニルの順で、神経障害性痛では①プレガバリン(リリカ)、②ノイロトロピン、③トラムセット、トラマール、モルヒネの順ということでした。そのほかに、トリプタノールやサインバルタなどの抗うつ薬もリリカの次に眠前使用して有効例があるとのことでした。
 リリカは自分でも処方をして何人も有効例を経験しているのですが、トラムセットはまだ処方したことがありません。今日の講演は実際的な注意点が示されて勉強になりました。


畑間内科クリニック

 

2014年7月4日金曜日

高血圧治療ガイドライン

 今年の4月に高血圧学会から2014年の高血圧治療ガイドラインが改定されました。これも4月に勉強させてもらったのですが、更新が遅れました。><;
 血圧測定については、家庭血圧を優先させ、原則2回測定して、平均を記録することが推奨されています。最近当院でも施行できるようになったのですが、24時間血圧計(ABPM)の高血圧基準は24時間では130/80mmHg、昼では135/85mmHg、夜では120/70mmHgとされています。ABPMでは白衣高血圧の除外や仮面高血圧の診断ができます。
 75歳以上の患者では150/90mmHgをめざし、可能であれば140/90mmHgにするように緩やかな基準になっています。また、糖尿病や蛋白尿を伴う慢性腎臓病(CKD)の場合は、130/80mmHgを目指します。ここで注意すべきはCKDのもう一つの範疇であるeGFRの低下のみで治療基準の設定がないということです。また、6m歩行を完遂できない虚弱(フレイル)高齢者の治療は個別に検討するようになりました。
 高齢者高血圧の特徴として、血圧動揺性の増大、ABPMで夜間血圧がnon-dipper型が多い、morning surgeも多いなどが指摘されています。
 第一選択の降圧薬から外されたβ-ブロッカーですが、心疾患合併高血圧には使用が勧められています。
 病態ごとの推奨降圧薬は、心房細動ではRA系薬剤は推奨がはずれたこと、骨粗鬆症ではCa排泄を低下させるのでサイアザイド系利尿薬が推奨されたこと、誤嚥性肺炎にはACE阻害薬が推奨されたことなどが挙げられます。
 ただし、第一選択のARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、降圧利尿薬を3剤してもコントロールできない場合は、α‐ブロッカー、β-ブロッカー、アルドステロン拮抗薬、中枢性降圧薬などを使用します。
 臨床評価として、眼底検査、心電図、心エコー、eGRF、尿蛋白、頚部エコー、ABIなどがあります。

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2014年7月2日水曜日

骨粗しょう症

 しばらく更新ができませんでした。だいぶ前、たぶん4月頃に行った講演会の資料が出てきたので、更新しておきます。
 骨粗しょう症の患者は全国に1200万人いると考えられており、骨折は寝たきり原因の2位であり、決して侮ることができない疾病です。
 骨塩量は20歳ころにピークに達して、40歳過ぎまでそれを維持するのですが、女性の場合、閉経後5-10年で骨塩量が急速に減少して、その後緩やかに低下していくと考えられています。そのため、女性においては骨折転倒が寝たきり原因の1位なのです。
 骨は骨吸収と骨形成を活発に行うダイナミックな臓器なのです。骨強度は70%が骨密度(BMD)と30%が骨質(骨代謝、骨梁構造、骨微細構造、骨石灰化)で規定されます。
 脆弱性骨折とは、低骨量が原因で軽微な外力によって発生した非外傷性骨折で、脊椎、大腿骨頚部、橈骨遠位部などに生じます。
 骨代謝マーカーには骨形成マーカーと骨吸収マーカーがあり、骨形成マーカーとしてはBAPやP1NPがあり、骨吸収マーカーとしてNTx, CTx, DPD, TRACP-5bがあります。その他にucOCが知られています。BAP, P1NPおよびTRACP-5bは腎機能に影響されません。
 骨粗しょう症に対する食事指導として、1日当たりカルシウム 800mg、ビタミンD 400-800IU(10-20μg)、ビタミンK 250-300μgが推奨されています。
 薬物治療開始時期は、大腿骨や脊椎の脆弱性骨折がある場合は骨塩量にかかわらず治療開始、大腿骨・脊椎以外の脆弱性骨折がある場合は、YAM<80%のとき治療開始、脆弱性骨折がない場合はYAM<70%のとき治療開始します。脆弱性骨折がなく、YAM70~80%のときは骨減少症と呼ばれて、大腿骨近位部骨折の家族歴があるか、FRAX>15%のときに高リスクと考えて治療を開始します。ここでFRAXとは10年以内の骨折リスクをWHOが国ごとに評価作成したものです。
 現時点ではこのガイドラインの指標に沿って治療をするしかないわけですが、10年後、20年後に骨粗しょう症を減らすには骨減少症や正常者の閉経後の骨密度の低下をどう防ぐかが重要なような気がします。そうでないと20年後も骨粗しょう症の患者減少は期待できないかもしれません。治療と劣らぬくらい予防が重要である点で生活習慣病と共通点が多く、骨粗しょう症は生活習慣病だとおっしゃる先生もいるほどです。今後解決すべき重要な課題と考えます。