2014年10月23日木曜日

Frailtyと高齢者心不全について

 まずはFrailtyについてです。虚弱を意味します。可動性、筋力、バランス、運動機能、認知機能、栄養状態、持久力、活動性など多様な要因が関与します。老化や病気でサルコペニアと呼ばれる筋肉量減少症が生じると筋力低下や歩行活動量低下が起こり、それはエネルギー消費低下をもたらし、食欲低下から慢性的栄養不足になる虚弱サイクルが成立すると考えられています。
 虚弱の定義には、5%以上の体重減少や20%以上の筋力低下などさまざまありますが、死亡、入院、転倒、ADL障害などをもたらします。
 老年症候群という概念があるそうで、せん妄、慢性めまい、転倒、尿失禁などを起こしやすく、多様性、脆弱性、複雑性がkey wordです。
 高齢者医療においては特に医師、看護師、ケアマネージャー、栄養士、薬剤師などチーム医療・ケアが重要であり、糖尿病、認知症、家族サポートなど包括的アプローチが求められます。

 次は高齢者心不全です。心不全の予後は悪く、高齢者は心不全の発症率が高いです。心不全の原因として、虚血、高血圧、弁膜症、心筋症が代表的で、基礎疾患により死亡率が異なります。弁膜症の予後が悪いです。60歳以上ではAR(大動脈弁閉鎖不全)、70歳以上でMR(僧房弁閉鎖不全)、80歳以上でAS(大動脈弁狭窄)が多いと考えられています。
 高齢者のASでは急性心不全による死亡率が特に高いことが知られています。加齢による変性型のASが多いとのことです。ASは、加齢とLDL-CとCKDに関係する生活習慣病の一つと考えられています。TAVIや補助人工心臓などの新しい技術が導入されています。
 CHF(うっ血性心不全)の治療では、利尿薬、強心薬、血管拡張薬、神経体液因子(心臓リモデリングに関連)、ACE阻害薬、ARB、β-遮断薬、抗アルドステロン薬、CRT-D、VAD、ICDなどが挙げられます。
 心不全死と関係する因子として、心室性頻拍(VT)、BNP、NYHA、年齢、糖尿病、体重などが指摘されています。心不全の急性増悪に関連するものとして、塩分・水分過剰、CKD、不整脈、貧血、感染が挙げられます。また、心不全に併存する病態として、心房細動)AF)/心房粗動(AFL)、慢性腎臓病(CKD)、認知症、低栄養、腎機能増悪(WRF)、高齢、貧血などがあります。
 高齢者の心不全のセルフケアは認知機能に依存します。心不全のケアは心臓疾患と他臓器老化が絡むため、包括的ケアが求められます。CVPはWRFの最も重要な予後規定因子と考えられています。また、心不全の約20%に低ナトリウム血症を認め、中期予後を悪化させると考えられます。
 Performance status(PS)という概念があり、虚弱、サルコペニア、悪液質、低栄養などが関係します。Frailtyに関係する物質として、カルニチン、グレリンなどがあり、運動療法として、レジスタンストレーニングで運動耐用能を向上させることが求められます。

 ある意味、人間の寿命との戦いという側面もあり、なかなか難しい問題であり、早急な解答は得られません。重い課題です!!!


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2014年10月19日日曜日

開院9年

 2日前の10月17日に開院9年を迎えることができました。
 本当にいろいろありました。これからもいろいろあると思いますが、そのたびごとに自分がベストと感じる道を進むしかありません。
 いろいろな患者さんを診察する機会を得られました。もうすでに他界された方もいます。私の方針と合わずに受診されなくなった方もいます。これからもこういったことはあると思いますが、それはやむを得ないと思います。
 より良い医療を模索していくだけです。これからも畑間内科クリニックをよろしくお願いいたします。

2014年10月11日土曜日

SGLT2阻害薬

 昨夜は久しぶりに講演会に参加しました。以前はよく参加していたのですが、どうしても製薬会社共催のものが多く、自社製品に関連した情報に限られる感じがあって、本当に自分に必要な情報ではないという気がしてきて、参加回数が自然と減ってきました。
 その分ゴルフの練習をしたり、スポーツクラブで走ったり泳いだりする回数が増えました。_(_^_)_

 ここ1年弱の間にSGLT2阻害薬と呼ばれる糖尿病の新薬が数種類市場に導入されてきました。昨夜はその1つであるルセフィという商品に関連したものです。SGLT2阻害薬に関する講演会に出席するのはこれが初めてです。
 SGLT2阻害薬は大雑把にいって腎臓でのグルコース再吸収を抑制して尿中にグルコースを喪失させることで血糖の低下を図ろうとする薬です。とても意外だったのは、腎臓での糖代謝、とりわけ糖新生や解糖系、糖のろ過や再吸収についてはいまだに一定の結論に至らず、議論が多くなされており、というより議論が停滞しているというほうが正確かもしれませんが、新たな研究がなされていないという感じなようです。
 少なくとも腎皮質の近位尿細管では糖新生がなされて、腎髄質の遠位尿細管では解糖がなされていると考えられています。髄質では嫌気的な環境で濃度勾配を形成して再吸収を行うために多くのATPを必要とするためなようです。

 腎臓でのグルコースの動きは、腎糸球体に1日1500Lの血液が流入して、150L/日の原尿が
形成され、その中のほぼすべてのグルコースが再吸収されて(血糖が100mg/dlとすると150gのグルコース)、尿中グルコース排泄はほぼゼロになります。
 尿細管細胞の尿細管腔側にSGLT1/2がNa勾配を使って能動輸送を行い、血管側にGLUT2などがグルコース勾配に従って輸送しています。

 SGLTはいくつか分離同定されているのですが、ここで重要なのはSGLT1とSGLT2です。SGLT2は、近位尿細管のS1セグメントに存在して(より糸球体に近い側)グルコース再吸収の90%を担うのですが、低親和性で50%飽和です。SGLT1は近位尿細管のS2/3セグメントにあり、残りの10%のグルコースを高親和性で15%飽和で完全に行うのです。

 健常人においてはろ過されたグルコースが180g/日とすれば、SGLT2で160g/日のグルコース再吸収が50%飽和でなされ、SGLT1により20g/日のグルコースが15%飽和で再吸収されるというわけです。糖尿病状態では血糖が高い分ろ過されるグルコースも多くなり、またSGLT2が増加するため、360g/日のグルコースをSGLT2で300g/日のグルコースを50%飽和で再吸収して、残りの60g/日のグルコースを45%飽和で再吸収するとシュミレーションできます。
 腎性糖尿という疾患があるのですが、これはSGLT2遺伝子変異で、尿糖が出るものの血糖は正常で、低血糖や体液量減少を伴うことは極めてまれです。
 SGLT2阻害薬でもSGLT1で代償されるため、低血糖は生じないと考えられています。

 健康成人でSGLT2阻害薬を使用すれば、180g/日の原尿に対してSGLT2でのグルコース再吸収はゼロになり、SGLT1で100%飽和で130g/日再吸収されて、尿中には50g/日のグルコースが排泄されることになります。糖尿病患者でSGLT2阻害薬を使用すれば、360g/日の原尿に対して発現の増加したSGLT2を2/3ブロックしたとして100g/日再吸収されて、SGLT1で100%飽和で130g/日再吸収されて、尿中に130g/日のグルコースが排泄されると推定されます。この場合、80g/日×4kcal/g
=320kcal/日のカロリー減少になるはずです。それにしては、体重減少は2-3kgでHbA1c低下はせいぜい1%程度でマイルドな効果しか発揮できない薬ですね。

 SGLT2阻害薬ではインスリン抵抗性の改善が示唆されており、利尿剤のNa排泄効果と異なり尿糖排泄は1日中持続すると考えられています。ただし、腎機能低下例ではGFRが低下するため、SGLT2阻害薬の効果が減弱します。NaClの再吸収に関して、健常時ではSGLT1+SGLT2で65gの食塩再吸収を行うのに対して、SGLT2阻害薬投与時にはSGLT1のみで78gの食塩再吸収を行うと考えられており、尿量増加と相まって尿浸透圧は低下すると考えられています。(ここは少し議論を要するかもしれません)

 ここからはルセフィの擦り込みですが、SGLT2/SGLT1選択性が強く、4つの代謝経路があり腎機能低下の影響も受けにくい、尿酸低下作用(URATv1=GLUT9)、尿中Na排泄増加に伴う24時間血圧計におけるnon-dipperパターンの改善などなどの説明がなされました。ここは話半分で聞いておきます。最近ABPM(24時間血圧計)を始めたので、最後の点は評価してみたいと思いました。

いずれにしろ、久しぶりに講演会に参加したので真剣にノートしてしまいました。(笑)






2014年10月9日木曜日

歓送迎会

 少し前のことになるのですが、重要なイベントなのでアップしておきます。
9月13日の土曜日にシーホークのすし割烹ともづなで歓送迎会をしました。3年弱パートの医療事務としてがんばってくれた坂本さんの送別と常勤看護師の松永さんと常勤医療事務の坂本さんの歓迎を行いました。

まずは定番の生ビールから開始しました。
 

少し時間がたっているのですが、おいしかったことだけは覚えています。



量も多すぎずに良かったです。





今日は食べログですね。


 初めて職場の食事会でシーホークを使用したのですが、福岡タワーも見ながら食事ができて楽しい時間を過ごせました。 みんなが希望するならば、またおいしいところに行ってみたいです。\(^o^)/


 
    
 
 




2014年7月7日月曜日

慢性痛

 きょうはめずらしく即日の更新です。今日のテーマは慢性痛です。全成人の22.5%が悩んでいると考えられています。ここで疼痛には侵害受容性痛と神経障害性痛に分けられ、侵害受容性痛とはズキズキするような重苦しい痛みであり、NSAIDsの効果があり、感覚障害を認めないもので、神経障害性痛とはヒリヒリ、ピリピリ、電気が走るような痛みであり、NSAIDsは効果なく、感覚障害を伴います。神経障害性痛は中枢性と末梢性があります。
 神経障害性痛の機序として、末梢性感作、中枢性感作および下行性抑制系の抑制などが示唆されています。
 トラムセットという薬剤があるのですが、弱オピオイドであるトラマドール37.5mgと中枢性鎮痛剤のアセトアミノフェン325mgの合剤です。トラマドール50mgがほぼモルヒネ10mgに相当するようです。ただし、副作用も60%と多いため、眠気、めまい、便秘、嘔気などを十分に対策を立てておくことが重要です。そのため、ナウゼリン1錠とマグミット2錠とともに眠前1錠から開始して2週間ずつ漸増して痛みがコントロールされていくまで増量していくのが良いとされているようです。2週間後に嘔気がなければナウゼリンは中止しても、便秘のコントロールは容易でないためマグミットは自己管理させて継続するほうが良いようです。疼痛改善率は65‐80%だそうです。効果発現も早いが、効果消失も早く、1日3‐4錠を必要とする例が多いようです。自動車を運転される方には眠気が生じるために注意が必要なようですが、使用できないとまでの発言はありませんでした。この点はもう少し自分としては検討したい点です。
 最後に薬物療法ですが、侵害受容性痛では①NSAIDs、②トラムセット、トラマール、③モルヒネ、フェンタニルの順で、神経障害性痛では①プレガバリン(リリカ)、②ノイロトロピン、③トラムセット、トラマール、モルヒネの順ということでした。そのほかに、トリプタノールやサインバルタなどの抗うつ薬もリリカの次に眠前使用して有効例があるとのことでした。
 リリカは自分でも処方をして何人も有効例を経験しているのですが、トラムセットはまだ処方したことがありません。今日の講演は実際的な注意点が示されて勉強になりました。


畑間内科クリニック

 

2014年7月4日金曜日

高血圧治療ガイドライン

 今年の4月に高血圧学会から2014年の高血圧治療ガイドラインが改定されました。これも4月に勉強させてもらったのですが、更新が遅れました。><;
 血圧測定については、家庭血圧を優先させ、原則2回測定して、平均を記録することが推奨されています。最近当院でも施行できるようになったのですが、24時間血圧計(ABPM)の高血圧基準は24時間では130/80mmHg、昼では135/85mmHg、夜では120/70mmHgとされています。ABPMでは白衣高血圧の除外や仮面高血圧の診断ができます。
 75歳以上の患者では150/90mmHgをめざし、可能であれば140/90mmHgにするように緩やかな基準になっています。また、糖尿病や蛋白尿を伴う慢性腎臓病(CKD)の場合は、130/80mmHgを目指します。ここで注意すべきはCKDのもう一つの範疇であるeGFRの低下のみで治療基準の設定がないということです。また、6m歩行を完遂できない虚弱(フレイル)高齢者の治療は個別に検討するようになりました。
 高齢者高血圧の特徴として、血圧動揺性の増大、ABPMで夜間血圧がnon-dipper型が多い、morning surgeも多いなどが指摘されています。
 第一選択の降圧薬から外されたβ-ブロッカーですが、心疾患合併高血圧には使用が勧められています。
 病態ごとの推奨降圧薬は、心房細動ではRA系薬剤は推奨がはずれたこと、骨粗鬆症ではCa排泄を低下させるのでサイアザイド系利尿薬が推奨されたこと、誤嚥性肺炎にはACE阻害薬が推奨されたことなどが挙げられます。
 ただし、第一選択のARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、降圧利尿薬を3剤してもコントロールできない場合は、α‐ブロッカー、β-ブロッカー、アルドステロン拮抗薬、中枢性降圧薬などを使用します。
 臨床評価として、眼底検査、心電図、心エコー、eGRF、尿蛋白、頚部エコー、ABIなどがあります。

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2014年7月2日水曜日

骨粗しょう症

 しばらく更新ができませんでした。だいぶ前、たぶん4月頃に行った講演会の資料が出てきたので、更新しておきます。
 骨粗しょう症の患者は全国に1200万人いると考えられており、骨折は寝たきり原因の2位であり、決して侮ることができない疾病です。
 骨塩量は20歳ころにピークに達して、40歳過ぎまでそれを維持するのですが、女性の場合、閉経後5-10年で骨塩量が急速に減少して、その後緩やかに低下していくと考えられています。そのため、女性においては骨折転倒が寝たきり原因の1位なのです。
 骨は骨吸収と骨形成を活発に行うダイナミックな臓器なのです。骨強度は70%が骨密度(BMD)と30%が骨質(骨代謝、骨梁構造、骨微細構造、骨石灰化)で規定されます。
 脆弱性骨折とは、低骨量が原因で軽微な外力によって発生した非外傷性骨折で、脊椎、大腿骨頚部、橈骨遠位部などに生じます。
 骨代謝マーカーには骨形成マーカーと骨吸収マーカーがあり、骨形成マーカーとしてはBAPやP1NPがあり、骨吸収マーカーとしてNTx, CTx, DPD, TRACP-5bがあります。その他にucOCが知られています。BAP, P1NPおよびTRACP-5bは腎機能に影響されません。
 骨粗しょう症に対する食事指導として、1日当たりカルシウム 800mg、ビタミンD 400-800IU(10-20μg)、ビタミンK 250-300μgが推奨されています。
 薬物治療開始時期は、大腿骨や脊椎の脆弱性骨折がある場合は骨塩量にかかわらず治療開始、大腿骨・脊椎以外の脆弱性骨折がある場合は、YAM<80%のとき治療開始、脆弱性骨折がない場合はYAM<70%のとき治療開始します。脆弱性骨折がなく、YAM70~80%のときは骨減少症と呼ばれて、大腿骨近位部骨折の家族歴があるか、FRAX>15%のときに高リスクと考えて治療を開始します。ここでFRAXとは10年以内の骨折リスクをWHOが国ごとに評価作成したものです。
 現時点ではこのガイドラインの指標に沿って治療をするしかないわけですが、10年後、20年後に骨粗しょう症を減らすには骨減少症や正常者の閉経後の骨密度の低下をどう防ぐかが重要なような気がします。そうでないと20年後も骨粗しょう症の患者減少は期待できないかもしれません。治療と劣らぬくらい予防が重要である点で生活習慣病と共通点が多く、骨粗しょう症は生活習慣病だとおっしゃる先生もいるほどです。今後解決すべき重要な課題と考えます。


 
 

2014年4月13日日曜日

関節痛

 今日は関節痛についてです。腰、肩、骨粗鬆症、痛風などによる関節痛の方は3000万人いると考えられており、手足の関節痛に限っても680万人いるといわれています。この中で膠原病による関節痛は100万人いると推定されています。関節痛の原因は変形性関節症、関節リウマチ(RA)、反応性関節炎、痛風、偽痛風など多岐に及びます。この中に膠原病もあるのですが、自己免疫疾患であり、早期の診断と治療が予後を左右します。RAで70万人、SLEで5万人、Sjogren症候群で5万人などの患者が推定されています。リウマチ性多発筋痛症(PMR)も治療が容易であることを考えれば、忘れてはならない疾患です。
 多関節炎の診断は、まず問診、身体所見、検査と進めていきます。問診では、いつ頃からか、症状の持続が6週間以上に及ぶかどうかどうか、急性か、徐々に始まったか、どの関節か、複数関節に及ぶか、対称性か、消化器系や泌尿器系などの先行感染があるか、腫れの有無、朝のこわばり、レイノー症状、皮疹の有無、発熱の有無などが重要です。
 身体所見では、視診で腫脹や発赤の有無を肘、手、膝、足の関節について評価します。触診では手のひらをあてて熱感をチェックする、圧痛、腫脹の評価などです。手関節の圧痛は母指と示指で挟むとよいようです。膠原病の皮疹にかゆみを伴うことは稀ですが、強皮症(PSS)と皮膚筋炎(DM)ではかゆみを伴います。膠原病ではさまざまな皮疹が知られています。蝶形紅斑(鼻唇溝を超えない)、ヘリオトロープ、口内炎、強膜炎、円盤状紅斑、ゴットロン徴候、レイノー症状などです。
 検査では、血沈、CRP、検血、検尿、抗核抗体、リウマチ反応、抗CCP抗体、胸部や関節のX線撮影などです。未分類関節炎で抗CCP抗体陽性の場合は、RAに進展する可能性が高いことが知られています。抗核抗体は抗ヒトγグロブリン抗体で、染色パターンでhomogenous, speckled, centromere, peripheral, nucleolar, 抗ミトコンドリア抗体(抗細胞質抗体)などがありますが、あまり病的意義は変わらないと考えられており、x80以下は正常と判断します。偽痛風では軟骨にカルシウム沈着が特徴的で、胸部レントゲンでは胸水や心拡大のチェック、関節炎については関節エコーやMRIが重要です。というのも関節リウマチでは早期にX線上異常を認めないからです。Heberden結節では変形性関節症の除外ができますし、DIPには滑膜がないのでRAは生じません。
 RAと鑑別を要する疾患としてPMRでは首、肩、腰などのどちらかというと大きい関節を傷害します。RS3PE症候群や腫瘍関連症候群も忘れてはいけません。
 MRIは良い検査なのですが、1回に1関節しか検査できないところが難点です。ただ、早期に異常が出やすいこととGdにより造影されます。関節エコーではpower dopplerを使用します。
 RAの治療ですが、アスピリン、ステロイド、メソトレキセート(anchor drug)、タクロリムス、生物学的製剤(抗TNF製剤など)などがあります。

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2014年4月5日土曜日

HDLの新たな知見

 だいぶ前になるのですが、とても勉強になったのでアップしておきます。3/26に阪大の山下静也教授のお話を聞いてきました。リポ蛋白群は変性LDLになり、スカベンジャー受容体を介して泡沫細胞に取り込まれます。LDLはアポB100の修飾を受けて、酸化LDLになります。この酸化LDLには以下のようなさまざまな作用があります。
①血管作動物質の分泌、②血管平滑筋の増殖、③マクロファージの泡沫化と増殖、④内皮細胞における接着分子発現と一酸化窒素生成調節、⑤白血球遊走調節、⑥過酸化脂質の生成、リン脂質の増加
 LDLは過酸化脂質生成反応とアポBの変性により酸化LDLになることにより、本来のLDL受容体に結合するのではなく、スカベンジャー受容体への結合やCD36への結合に至ります。
 ここでHDLの形成についてみてみると、アポA-Ⅰは8割が肝で合成され、2割は小腸から吸収されます。そして、円盤状のDiscoidal HDLになり、肝のABCA1の働きでABCAになり、さらにLCATの働きでsmall HDLにになります。small HDLはLCATの働きでlarge HDLになり、CEと結合してSR-B1になることもあるのですが、大半はアポB含有リポ蛋白(VLDL, IDL, LDL)に変化して肝のLDL受容体に結合します。この辺りは複雑で、間違いがあるかもしれません。
 低HDL-C血症は単独でも動脈硬化を悪化させることが知られています。低HDL-C血症の原因として遺伝性と2次性があります。2次性低HDL-C血症の原因として、①喫煙(LCATを低下させます)、②肥満、メタボ、③運動不足、④高TG血症、⑤肝硬変末期、⑥アンドロゲン、プロゲステロン、⑦降圧薬(β-ブロッカー、サイアザイド)、⑧プロブコールなどが挙げられています。
 そもそもHDLには多彩な機能があることが知られています。
①コレステロール引き抜き能と逆転送系、②抗感染活性、③抗血栓活性、④抗酸化作用、⑤抗DM作用(ABCA1を介したインスリン分泌亢進による)、⑥抗アポトーシス活性、⑦血管内皮細胞修復、⑧血管拡張活性、⑨抗炎症作用(ICAMやVCAMなどの接着因子の促進や抑制)
 なぜこれほどまでに生理活性が多いかというと、HDLには多くの蛋白や酵素が結合しているためのようです。
 Pon1、A-Ⅰ、A-Ⅱ、LCAT、CETP、PAF-AHなどを含んだfunctional HDLが、sPLA2、SAAなども含んだdysfunctional HDLに変化することがあるようです。冠動脈疾患の患者のHDLは内皮細胞のNO産生を抑制することが知られており、これはdysfunctional HDLの例といえます。HDLの補充はNO産生を惹起して内皮機能を改善します。これはfunctional HDLの例といえます。
 また、proinflammatory HDLとantiinflammatory HDLがあり、LDLの酸化、血管の炎症、コレステロールの逆転送にそれぞれ反対に作用します。コレステロールの引き抜き能がよければ、CADのリスクは下がると考えられます。
 創薬の一つとして、CETP inhibitorがあるのですが、HDL-Cが上昇します。HDL-Cを上昇させるのは薬だけではありません。生活習慣の改善です。①有酸素運動 5-10%、②禁煙 5-10%、③1㎏の減量 0.35mg/dl/kgBW、④適量のアルコール 5-15%、⑤ω-3脂肪酸 0-5%上昇させることが知られています。薬剤では①フィブラート 5-25%、②ナイアシン 10-30%、③スタチン 3-12%、④エゼチニブ 3-7%上昇すると考えられています。
 HDL-Cは俗に善玉コレステロールと呼ばれていますが、HDL-Cが90mg/dlをこえると、心電図上虚血性変化が増えると考えられているそうです。
 フラミンガム研究でもCETPが低いと、血管病が増えることが示されています。先に述べたCEPT inhibitorの開発が行われているのですが、そのいくつかは中止に至っています。CEPT阻害によっては粥状硬化は予防できず、obese large HDL=dysfunctional HDLが増加するということです。
 私も使用しているL/H比については、CETP欠損症やCETP阻害薬でも低下しますが、これらの状態では動脈硬化を防御できず、probucol(ロレルコ、シンレスタール)ではLDL/HDL比はかなり増加しますが、強い抗動脈硬化作用があります。つまり、L/H比は意味がなく、それぞれの絶対値が重要とのことです。
 probucol(ロレルコ、シンレスタール)によって、①黄色腫が減る、②抗酸化作用がある、③LDL-Cが10%低下する、④HDL-Cは大いに低下することが知られています。私自身今までに使用経験がないような薬です。その機序は、reverse cholesterol transportが上昇して、HDL機能の改善があるようです。家族性高コレステロール血症においてprobucolがCADイベントが減少することが知られています。ある研究ではprobucolによりCAD患者の死亡率が55%も低下したことが示されています。
 probucolには①HDLをLDLに変化させるCETPが上昇してlipid poorなスリムなHDLになる、②肝でのSR-B1が増加してコレステロールが肝に取り込まれる、③抗酸化作用を認めるなどの作用が証明されているようです。

 本当に目からうろこで勉強になりました。スポンサーはスタチンの会社でしたが、自社製品に関係ないがとても重要な情報をもたらしてくれるこのような会を催してくれたアストラゼネカ/塩野義には好感を持てました。

 ついでに、4/1は家族の一部が映画に行くということで、診療後に慌ててついていきました。”永遠のゼロ”を博多駅の映画館で見ました。原作は読んでいたので、映画を見る予定はなかったのですが、映画の日でしたし、気分転換になるのかなと思って行ってきました。映画館に邦画を見に行くことはほとんどないのですが、このテーマは、日本人にしか扱えないテーマですし、ストーリーは知っていても泣ける良い作品でした。主人公は、その当時多くいたであろう誠実に生きた素晴らしい日本人の一人です。
 最近、日本人であることに誇りを感じるようになりました。若いころには感じられなかった感情です。年をとったためでしょうか・・・><!?


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2014年3月10日月曜日

COPD: チオトロピウム発売10年

3/6にチオトロピウムの発売10周年の記念講演会に行ってきました。

 まず、COPDの診断ですが、久山町研究で気管支喘息は2%(事前診断37.5%)、COPDは8.4%及び喘息とCOPDのオーバーラップ0.9%(事前診断はあわせて17.5%)であり、一般人口の1割がCOPDを有しているのに、診断率が低いため、その助けのためCOPD集団スクリーニング質問票(COPD-PS)というものが紹介されました。使用してみたいと思います。カットオフは4点でスパイロメトリーを実施することが推奨されています。

 次に、COPD病態進行の指標として低酸素血症が重要で、とりわけ労作時の酸素分圧の低下を診断するために、6分間歩行試験が推奨されていました。TORCH studyではFEV1の年間低下がCOPDで55ml、SAL(salmeterol)で42ml、FP(fluticasone propionate)で42ml、SFC(SAL and FP in combination)で39ml、また、UPLIFT studyではコントロールで42ml、TIO(tiotropium)で40mlです。

 FletcherのカーブではFEV1の減少率は3%で、COPDのFEV1の年間低下はstageⅠで40ml、stageⅡで47-79ml、stageⅢで56-59ml、stageⅣで<35mlで、重症なCOPDほどFEV1の低下は小さくなることは記憶されるべきです。
 さらに、COPDの管理目標として、身体活動性が重要視されています。

 ここで、気管支喘息とCOPDのオーバーラップの診断は、大診断基準として①気道可逆性としてメプチン4パフの15分後にFEV1の15%または400ml以上の改善、②喀痰中の好酸球増多、③気管支喘息の既往歴、小診断基準として④血清IgEの上昇、⑤アトピーの既往歴が挙げられています。さらに、呼気NO濃度も診断の一助になるでしょう。オーバーラップの場合は呼吸機能の低下が大きく、死亡率の上昇が知られています。
 COPDにおける気道収縮はコリン依存性が大きいことが知られています。

 病状進行の防止として、増悪が多いと予後が悪いと考えられています。FEV1が改善してもFVCも改善するのでFEV1%は不変となることがあるようです。

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2014年3月8日土曜日

肥満症と糖尿病

 3/5はヘビーな講演会に久々に参加しました。テーマがテーマですから参加された先生も多かったです。2時間に3演題は少し内容濃すぎかも・・・。
 スライドが速すぎて、十分にフォローできませんでした。細かい点は多少不正確かもしれません。速記習っておけばよかったな・・・。

 まずは、糖尿病と肥満症の総説です。インスリン分泌力は遺伝の影響が大きいですが、インスリン抵抗性は、肥満、過食、高脂肪食、運動不足やストレスなどの環境因子の影響が大きいと考えられます。
 糖尿病においては、長期的な血糖コントロールの悪化が問題なのですが(2次無効)、β細胞機能の低下が一因と考えられています。糖尿病診断時にはインスリン分泌は正常の半分と考えられています。
 糖毒性はインスリン分泌不全とインスリン抵抗性をもたらします。
 低血糖は総死亡を増やすことが知られていますが、HbA1cと総死亡の間にUカーブの関係があり、HbA1c 7.5%程度が総死亡が最低になるようです。Accord Studyにおいても厳格な血糖コントロールが総死亡を上昇させることが示されていますが、その一因として交感神経緊張や体重増加が推定されています。
 内臓脂肪100cmはBMI 25にほぼ相当すると考えられています。健診データによると、メタボリック症候群は男性で15%、女性で1.3%に認められるそうです。メタボの腹囲も男性では85cmのままでよいが、女性は90cmではなく80cmを適用すべきだという意見が多いようです。

 次は肥満および糖尿病に対する外科治療です。
肥満に対する外科手術はいくつかあるのですが、基本は腹腔鏡下に胃の縮小を行う手術です。手術適応は人種により若干違っているようですが、手術死亡率が0.1-0.3%であることからBMIもだんだん下がってきているようです。長期的合併症として、栄養障害や貧血などがあり、バイパス術では一生サプルメントが必要だということです。また、これまでは保険の適応がなく約200万の費用を要していたようですが、4月からはスリーブ状胃切除に保険が適用されるようです。
 糖尿病の外科手術で完全寛解は患者が若いほど、罹病期間が短いほど、BMIが大きいほど効果は大きいということです。これからは糖尿病外科がもっと多くなるのかもしれません。

 最後に、肥満の内科治療ということで、膵リパーゼ阻害剤の話がありました。1日の脂肪摂取量は年々増加しています。武田薬品が上梓を目指している新薬です。もう少し演者を絞ってじっくりと話が聞きたかったなあと感じました。こういう会の構成は個人的には嫌いです。一般の方への啓蒙ではないのでもう少し深く掘り下げてほしいです。

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2014年2月20日木曜日

肺がんセミナー

 昨夜は九州がんセンターが行っている肺がんのセミナーに参加しました。この会にはできるだけ参加するようにしています。というのが、胸部レントゲンの読影を実際に行い、後で答え合わせをするという面白さがあります。出題は実際に九州がんセンターに紹介されて、最終的に治療を行った症例です。20問出題されたのですが、2/5、3/5、5/5、5/5の正解で15/20で75%の正解率でした。
実際に正解の場所を示されてもにわかに納得できない問題もあります。かなり、正常との鑑別は難しいものもあります。ポイントとして、左右差に着目すること、本来あるはずのラインの有無に注意することが重要なようです。胸部レントゲンで異常を発見できるかどうかでその後が大きく変わることを考えれば、もっともっと研鑽をつまねばなりません。

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2014年2月12日水曜日

低ナトリウム血症とSIADH

 今夜は”診断力を磨く会”に参加してきました。この会は、学生時代のポリクリを彷彿とさせるようなユニークな会です。
 診断に迷った時にVINDICATEという言葉があるそうです。
V: vascular 血管性
I: inflammatory 炎症性
N: neoplastic 腫瘍性
D: degenerative 変性疾患の
I: infectious 感染性
C: congenital 先天性
A: autoimmune/allergic 自己免疫の/アレルギー性
T: traumatic 外傷性
E: endocrine/electrolyte disorder 内分泌性/電解質異常
 覚えておこうと思います。
 1例の症例を鑑別診断を考えながら、必要な検査などをみんなで考えていくというものです。
 SIADHによる低ナトリウム血症の症例提示でした。
 SIADHは中枢神経性、肺疾患、ADH異所性産生腫瘍および薬剤性などがあります。
 ここで印象に残ったのは、SIADHに酷似するが脱水を呈する点で異なる”高齢者におけるミネラルコルチコイド反応性低ナトリウム血症:mineralcorticoido responsive hyponatremia in the elderly: MRHE”という疾患概念です。みなさんよく勉強されていますね。啓発されます!!!もっと頑張らなければ・・・。
 それとこの会を後援しているのはMeij Seikaファルマなのですが、自社商品と直接関係しないようなこの会をサポートしているのはすごいなあと感じました。直接的関係の会が多いですからね。
 今年は講演会への参加を絞り、自分で本を読む時間を増やそうと思います。


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2014年2月9日日曜日

好酸球性副鼻腔炎と気管支喘息

 今日は今週の水曜日、2月5日に勉強させてもらったことを書こうと思います。
 副鼻腔炎(蓄膿症)にはその9割を占める好中球性副鼻腔炎とその1割の好酸球性副鼻腔炎があります。好中球性は抗生剤で治療し、比較的ポピュラーな病気といえます。一方、好酸球性副鼻腔炎は鼻茸を合併することが多く、嗅覚障害も伴いやすい。鼻汁中には好酸球が多く、アレルギー性鼻炎や気管支喘息の合併も多いです。組織所見は好酸球の浸潤が認められ、治療としてステロイドが有効です。血中好酸球も6%以上となることが多いようです。画像診断としてCTが推奨されて、副鼻腔内の病変の広がりを確認します。篩骨洞から発生して上顎洞に広がることが多いようですが、原因は明らかでないのですが、前頭洞や蝶形骨洞にはあまり見られないようです。
 治療としては、まず篩骨洞と上顎洞の内視鏡下内膜除去術を行った後に、ステロイド(セレスタミン1錠、プレドニン3錠またはリンデロン)やステロイド剤の点鼻やロイコトリエン拮抗薬(LTRA、シングレアまたはオノン)を投与して経過を見るようです。原因となるアレルゲンは特定されないことが多いようです。
 
 次は、喘息です。咳は一般的に医療機関を受診する理由のトップ3にはいるほど多くの方にとって煩わしい症状と思われます。咳嗽の発生機序は正確には解明されていないのですが、気管支上皮と平滑筋から迷走神経を介して咳中枢に伝えられます。
 分類ですが、痰を伴うか否かで湿性咳嗽と乾性咳嗽に分けられます。基本的に湿性咳嗽には去痰薬で治療するのが基本です。また、持続期間で3週未満の急性、3週~8週の遷延性、8週以上の慢性に分けられます。慢性咳嗽の場合、抗菌薬の効果はあまり期待できません。
 慢性咳嗽の原因ですが、欧米では後鼻漏、胃食道逆流、咳喘息が多く、他方、日本では、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、咳喘息が多く、若干の相違があります。忘れてはならないのは、ACEIなどによる薬剤性咳嗽や喫煙によるものなどを除外する必要があります。
 咳嗽のポピュラーな原因として、①咳喘息・・・夜間~早朝の増悪、②アトピー咳嗽・・・のどのイガイガ感、季節性があり、アレルギー疾患を伴うことが多い、③副鼻腔気管支症候群・・・膿性痰、④胃食道逆流・・・会話後や食後の咳嗽、PPIが有効、⑤感染後咳嗽などがあります。
 咳喘息は8週以上持続する咳で、喘鳴は伴いません。β-刺激薬やテオフィリン製剤の気管支拡張剤が有効です。また、末梢血や喀痰中の好酸球や呼気NO濃度も診断の助けになります。
 再発予防ですが、咳喘息患者の1/3は1年以内に気管支喘息へ移行することが知られており、吸入ステロイドの継続使用でこの移行を抑制できると考えられています。また、LTRA内服を2冬続ければ、気管支喘息への移行を予防できると考えられています。
 気道リモデリングという気管支平滑筋肥大と粘膜下腺組織肥厚が生じることが知られており、気道収縮がこれを増悪させます。
 感染は喘息死の誘因となることがあります。また、喘息患者の喫煙率は17~35%といわれており、少なくとも半数に喫煙歴があります。
 喘息妊婦と児の喘息発症リスクは1.6倍と考えられており、妊娠前の禁煙が有効と考えられています。
 ライノウイルスは最も多い喘息発作の誘因と考えられています。また、RSウイルスもよく喘息を誘発することが知られており、これらのウイルスはasthmagenic virusと呼ばれています。
 また、マクロライド系抗生剤は喘息発作の軽快と増悪頻度の減少に寄与すると考えられています。

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2014年2月5日水曜日

冠動脈疾患の治療と糖尿病

 昨夜は冠動脈疾患の治療について勉強してきました。
1977年にGruentzigがPTCAを始めたことに冠動脈のカテーテル治療が幕を開けます。その約10年前の1968年にFavalaroによってCABG(冠動脈バイパス手術)は初めて行われました。その後カテーテル治療は1987年からBMS(ステント治療)が始まり、1997年からDES(薬剤溶出性ステント)が導入されています。
 PCI(カテーテル治療)ではCABGに比べて、心血管イベントが多い、つまり患者の長期予後が悪いという事実があります。DESの導入でステント部の再狭窄が減少しましたが、患者の死亡は減少しないということです。その要因として、冠動脈の新規病変の出現と不安定プラークの出現が考えられます。
 また、PCIとCABGの成績の差は、非糖尿病では明らかではないのですが、糖尿病群で差が生じています。LIMA-graft(左内胸動脈)にはあまり動脈硬化性病変が生じないことが知られています。
 待機的にPCIを受けた患者に75gGTT(糖負荷試験)を行うと、その2/3に耐糖能低下が認められますが、その平均HbA1cは5.6%と正常域にあり、積極的な耐糖能障害のスクリーニングと早期の治療介入が重要なようです。食後高血糖はPCI患者の心血管イベントを増加させるようです。
 インスリン抵抗性→高インスリン血症→心血管疾患というスキームが存在します。そのためMET(メトホルミン)やTZD(チアゾリジン)を使用することが推奨されていました。食後高血糖の改善のためにα-GIやDPP-4阻害薬が推奨されているようです。
 PCI全盛の時代ですが、治療成績はまだCABGには及ばないのですね。CABGは当然開胸手術になるため、カテーテル治療が選択されやすいのもなんとなくわかりますが、施術後2年以降の成績に差が出てくるようです。

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2014年2月3日月曜日

高血圧

 今夜は高血圧です。
 いくつかの遺伝子が高血圧関連遺伝子として同定されているようですが、どういった条件でその遺伝子が高血圧を発症させるのかという実際的に興味深いところはまだあまりわかっていないようです。
 高血圧と認知症の関連が指摘される中で、中年期の高血圧は高齢期の認知症やアルツハイマー病(AD)の発症のリスクではあるが、高齢期の高血圧の関与は明らかでないようで、つまり、早期に治療開始したほうがよいということです。ADの特徴的な脳の組織学的変化である老人斑や神経原線維変化も高血圧の方では多いことがわかっています。
 夜間血圧変動パターンとしてdipper(昼間より10-20%下がる)、non-dipper(昼間より10%未満の低下)、riser(昼間より上昇する)及びextreme-dipper(昼間より20%以上低下)に分類されます。
 いくつかの大規模臨床試験が示されて、血圧をより下げたほうがより良い臨床結果になるということは以前より言われなくなった印象です。以前は”The lower, the better"と声高に言われたものです。その中で注意すべきと感じたのは、PATE研究で示された75歳以上では収縮期血圧を120mmHg以下にすると心血管リスクが逆に上昇するというものです。注意せねばなりません!!
 さらに、血圧変動の群間差(visit-to-visit variability)ですが、これが大きいほど心血管リスクが高いことが知られており、臨床的にはとても悩ましい問題です。これについては家庭血圧の測定で補完すべきとのお話でした。
 今春高血圧治療ガイドラインが改定されるのですが、利尿薬、ARB, ACEI, カルシウム拮抗薬のいずれでも降圧レベルが同じならばあまり大きな結果の差は出ないのではないかという気がしています。3剤以上の降圧薬の併用では1剤は利尿剤にするように示されています。また、ARBとACEIの併用は基本的に推奨されていません。個人的には、必要と考えた症例にはそれなりの注意をしながら併用しています。
 目新しいことはなかったのですが、知識の整理になりました。

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2014年1月29日水曜日

不飽和脂肪酸

 今週の月曜日に勉強してきたことを書きます。
我々が処方する薬にEPAとEPA/DHAの2種類があります。一方は持田製薬のエパデールという商品で、高純度のEPAが売りで、発売24年になる薬剤です。他方が1年前に武田薬品から出されたロトリガというEPA/DHA両方含んだ薬剤です。ともに高脂血症の治療薬なのですが、動脈硬化や不整脈、認知症など多彩な作用が研究されています。
 この日はエパデールの勉強会でしたから、どうしてもエパデールがよくて、対抗品が劣るという論調が多かったです。特定の商品をPRする勉強会の宿命なのですが、どうしても高純度EPAがよいのだという擦り込みになります。
 いくつか面白かったトピックをあげると、エパデールでrho kinaseを介した冠動脈攣縮を改善できた症例や、ω-3酸エチルはEPA/DHAの混合なので純化されておらず、LDL-コレステロールを30%ほど上昇させることがある点、高純度EPAには有機水銀が含まれる可能性が低い点などの話がありました。
 私が、個人的にもっとも印象深かったのは、n-3脂肪酸には心血管イベントの1次予防効果も2次予防効果も明らかでないということがわかってきたようです。この理由は同時に使用される高コレステロール血症治療薬のスタチンの効果でn-3脂肪酸の効果が打ち消されるというものです。
 さらに、ORIGIN,OMEGA,Risk nad Prevention Studyではω-3酸エチル(ロトリガ)の有用性が証明されなかったということです。
 なぜ、n-3不飽和脂肪酸でもEPAがDHAより勝っているかという機序についてですが、アラキドン酸(AA)が血管の細胞膜に存在すれば、炎症性サイトカインが活性化されるのですが、AAがEPAに置き換わればその活性が起こらず、血管内皮機能も改善されるとのことでした。また、プラークの安定化作用もあるということです。このAAに対する置換がDHAには起こせないので、逆に血管内皮機能を悪化させるとのことでした。
 以上の点は、よく検討しなければならないと思いました。つまり、反対の意見やデータがあるのであれば、それも俎上にのせて検討しなければフェアとは言えないと思います。製薬会社のいうようにしか物が見れないでは困ります。我々は常に批判的な目を持っていなければ、単に薬屋さんに踊らされる医者になってしまいます。日々の臨床で統計がとれるほど多くの患者の治療をしているわけではないのですが、一例一例考えながら診療をすることがその答えを見つける近道なのかもしれませんね・・・。
 個人的には、エパデールもロトリガも中性脂肪を下げる力はマイルドであまり多くを期待していません。ただ、EPAにもEPA/DHAにも成分にはポテンシャルを感じているので、今後も使用すると思います。

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2014年1月17日金曜日

動脈硬化と低用量アスピリンの消化管粘膜障害

 今夜も少し勉強してきました。
 まずは低用量アスピリン(LDA)は脳血管障害や虚血性心臓病などの2次予防によく使用され、その有効性が証明されています。しかし、同時に消化管粘膜障害を惹起して消化管出血を併発することがあります。この種の病変は、症状に乏しく、LDAの用量に依存せず、ピロリ菌保菌者でより生じやすいことが知られています。そして、消化管出血を生じれば、患者の生命予後も悪化させることが知られています。この病態に対する予防として、プロトンポンプインヒビター(PPI)が有効とのことです。具体的にいえば、ネキシウム20㎎か、タケプロン15㎎の使用です。PPIの長期投与では、collagenous colitisによる下痢などの副作用も知られているのですが、比較的まれなのでベネフィットのほうが多いと言えるようです。しかし、LDA使用者のすべてにPPIを使用するわけにはいきません。潰瘍既往歴のある患者と高齢者にはPPIをLDAに併用したほうが良いようです。
 次に動脈硬化です。動脈硬化の本態は血管炎で、血管障害に対する反応が炎症と考えられているということでした。それゆえ、微量のCRP上昇は血管炎を示唆して、動脈硬化が進行中であることを示しているのかもしれません。慢性扁桃炎、副鼻腔炎、歯周病、膠原病などの慢性炎症は動脈硬化の危険因子と考えられています。薬剤でいえば、スタチンやアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)はCRPを低下させて微小炎症を減少させることが知られています。
 インフルエンザの流行が始まっていますが、インフルエンザ流行時は心筋梗塞が増えるそうです。ウイルスがプラーク周辺にもやってきて炎症を起こすのかもしれません。興味深いですね。
 血管狭窄は内膜肥厚を起こす内膜の病気であり、糖尿病が危険因子です。一方、動脈瘤や血管拡張は平滑筋の壊死(アポトーシス)で生じる中膜の病気と考えられており、喫煙が危険因子と思われます。
 最近話題の大気汚染物質との関係ですが、PM2.5とはParticulate Matter 2.5の略で、粒子径2.5μmで50%の捕集効率をもつフィルターを通る微粒子のことだそうです。黄砂がアテローム塞栓性脳梗塞発症や急性心筋梗塞発症と関連しているというデータがあるそうです。また、PM2.5が循環器疾患の死亡リスクを上昇すると考えられているようです。
 次に薬剤についてですが、スタチンによる脂質管理は、LDL-C 100㎎/dl未満(ハイリスク例では70㎎/dl未満)、TGが200㎎/dl以上の時はnon-HDL-C 130mg/dl未満(ハイリスク例では100㎎/dl未満)が推奨されています。体重管理はBMI 18.5-24.9を維持すること、運動は毎日30-60分を行うことなど厳しい目標が掲げられています。運動に関しては筋肉を内分泌器官とみなして、myokineという筋肉から出るサイトカインが多臓器とcross-talkすると考えられているそうです。
 それ以外にも興味深い話は合ったのですが、今日はこれくらいにしておきます。ちょっと疲れました・・・。

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2014年1月15日水曜日

糖尿病と癌

 今年初めての書き込みです。やっと正月気分も抜けて仕事モードに入ってきました。本日の講師は、久山町研究を中心となってされている清原裕教授です。
 久山町研究は1960年から九大で行われている40歳以上の久山町住民を対象とした前向き研究です。健診受診率80%、剖検率75%、追跡率99%と世界に誇れる疫学研究です。
 日本においても多くの先進国にみられるように糖尿病およびその予備軍が増えています。2030年には糖尿病の患者は50%増加すると予想されています。また、日本人の2人に1人が癌にかかり、3人に1人が癌で死亡します。
 75gGTTという糖負荷試験で、久山町でもほぼ1/4が糖尿病と診断されています。さらに、高齢者の糖尿病が増えています。
 空腹時血糖(FBS)が上昇するほど癌死のリスクが上昇しています。胃癌についていうと、HbA1cが6%以上から胃癌リスクが上昇します。また、ピロリ感染と高血糖が合併すると、胃癌リスクが上がると考えられています。ついでにいうと、ピロリ感染と高食塩食の合併でも胃癌リスクが上昇することも知られています。
 糖尿病は前立腺癌を除くほとんどの固形癌(肝、膵、子宮内膜、大腸、乳房、膀胱)のリスクを上昇させると考えられています。その機序ですが、癌の発生過程としてInitiation(発癌)、Promotion(増殖)およびProgression(転移)と進むことが知られているのですが、このそれぞれにおいて①高血糖および酸化ストレス、②高インスリン血症および活性型IGF-1上昇、③炎症の3つが関与していると考えられています。
 ここで面白いデータがあります。糖代謝異常の有無による悪性腫瘍の累積死亡率には差があるが、糖代謝異常による心血管病の累積死亡率に有意差がなかったというものです。つまり、糖尿病の患者は血糖正常の人と比べて癌は多いが、心血管病は多くないというものです。糖尿病の治療が心血管病予防という観点では功を奏し始めたということかもしれません。
 糖尿病と癌に関する介入試験はほとんどないため、今後の検討が待たれます。糖尿病が重症なほど癌のリスクが高くなるため、糖尿病罹患歴を勘案した多変量解析を要するのですが、糖尿病治療薬で癌の発症が有意に増加するということは認められていません。ただし、メトホルミンでは癌リスクを下げることが示されています。インスリン、SU剤、DPP-Ⅳ阻害薬では癌と関連はなさそうでした。ここでピオグリタゾンと癌についてフランスでなされたCNAMTS研究について説明され、統計的な問題(糖尿病罹患歴を勘案していない、検索研究であり、P<0.05ではなく、P<0.002を採用すべきである)があり、ピオグリタゾンと膀胱癌の関連はないのではないかという説明がありました。また、アジア人では膀胱癌とピオグリタゾンの関連を示すデータはないとのことでした。アクトスを使用しているものとしては心強いデータでした。さらに、ピオグリタゾンはインスリン感受性改善薬なので、肝癌リスクをむしろ下げるというデータがあるようです。糖尿病の治療を選択する上で、癌のリスクを主な考慮に入れるべきではないというのが、現時点でのコンセンサスのようです。
 Take Home Messageとして、糖尿病の方は心血管病の検査だけでなく、癌のスクリーニングも重要だと再認識させられました。

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